名古屋家庭裁判所半田支部 昭和44年(家)20号 審判 1969年3月19日
申立人 浜田高子(仮名)
主文
本件申立を却下する。
理由
(本件申立の要旨)
申立人は「高子」と命名され、戸籍上その旨登載されたが、幼時よりその名を「清惠」と称し使用してきたため、日頃少なからず不便を感じていた、ことに昭和四〇年夫を亡くし、職に就くこととなつたことから、右のような通名と戸籍名とのそごにより社会生活上著しい支障をきたすことになつたため、申立人の名「高子」を「清惠」に変更することの許可を求めるものである。
(当裁判所の判断)
申立人審問の結果に申立人提示にかかる資料によれば、申立人は戸籍簿に登載された名が「高子」であるのに拘らず、幼時よりその名として「清惠」を称してきたことを窺うことができる。
ところで、右通名の「清惠」の「惠」の字はいわゆる当用漢字にはなく、新たに命名するときは「惠」を「恵」として届出なければならないことにきめられている(戸籍法第五〇条、同法施行規則第六〇条)一方、通名として永年使用してきたことを理由に改名を許可する場合には、通名と戸籍名とのそごによる社会生活上の著しい支障がなくなれば、それで充分であつて本件にあつては「高子」が「清恵」に変更されるならば、右のような支障は一切取除かれるものと考えられ、裁判所としてもかかる改名を許可するにやぶさかではない。
ところが、申立人は当用漢字にある「惠」では字画が悪いので「清恵」と改名されるのであれば、これが許可は求めないと述べ、その旨固執して譲らないのであるが、裁判所としては前示社会生活上の障害の除去以上に、字画というごときいわれなき因習ないし迷信に加担してまで改名を許さなければならないいわれはない。
また、飜つて申立人の右のような主張から推測すると、申立人にとり通名が戸籍名と一致しないことによつていささか不便を感じてはいるものの、社会生活をしてゆくうえで、さほど支障をきたしていないのではないかとみられないこともない。
以上、要するに、申立人の名「高子」を「清惠」と変更するについては正当の事由がないものと断ぜざるをえず、本件申立は却下を免れない。
よつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 杉浦竜二郎)